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scene 15 湧別

9月17日 晴 北海道湧別町 4021km
昨夜湧別町で宿探しをして辿り着いた宿は、島田たくろう牧場という宿。この宿は旅人のこころを誘発し、導くような仕掛けがある、語るに相応しい宿だ。

まずはサイロを備えた牧舎が目を引く。オーナーさんにまずはと通された牧舎の内部に非常に興味を引かれる。だが、ここにも泊まれるのですがと前置きした上で薦められたのが、その牧舎の離れにあるログハウス。オーナーの手作りであるログハウスはシンプルで必要なもの以外は何もない所だが、掃除が行き届いていることが分かる、気持ちの良いログハウスなのである。牧舎が本館、こちらが別館というところか。ちなみにこのほかにログハウスがもう一つあり、それぞれに名前がついている。僕が利用したのは「オホーツクひとり旅」だ。
過去に恐らく牧場として利用されていたと思われる、広大な敷地にはこれらの他に露天風呂、子供が遊べる遊具などが置いてある運動場、さらには歌人の碑という草が綺麗に刈り取られ整備されている小さな丘に、短歌などが彫られた石碑が不等間隔に建てられた庭園などがある。これはオーナーの趣味らしい。

ホタテ風呂。この宿には3つの風呂があるが、すべてがオーナーの手作り。このホタテ風呂は恐らく業務用の調理鍋か何かを改造して作ったと思われる、非常にアイデア溢れる風呂だ。機会があると、これに牛乳を入れてミルク風呂にも入れる。

牧舎内部。食堂のように広い。全ての調理器具がそろっており、利用できるようになっている。
それとは別に鍬やランプなど昔の酪農具がところどころにアンティークさながら置いてある。博物館さながらだ。
極めつけはだるまストーブ。使用していいとのことで、薪を燃やして、その上でジンギスカンを作った。

ここは「いっぷく茶屋」と呼ばれるもの。これも離れのログハウスで、ここにはコーヒー紅茶など10種以上の飲み物やお茶菓子が楽しめるようになっている無人喫茶店。それも、宿泊した人だけでなく、ここに立ち寄った人なら誰でも無料で利用できるという信じられない喫茶店だ。ここもオーナーが貯めた年金を全て使い果たし作ったという。

そのいっぷく茶屋でコーヒーを愉しみながら、テーブルに置いてある感想ノートを手に取ると、最初のページに宿のオーナーが書かれた言葉があった。引用する。

一日の中で
自分でもはっと驚く程
鋭い感性のひらめくときが
あります
情とはこころです この心
を大切に考いることは人間に
あたえられた特技でもありま

多分ひとときひとときがと
ても大切であることに気が
ついたとき それが生きてい
る証なのだとおもいます


宿の目の前にはオホーツク国道。その幹線道路を多くのオートバイが通り過ぎていく。きっとこの宿の存在に気付かないのであろう。
周囲は森に囲まれてひっそり。国道沿いにありながらも誰にも気付かれない旅人の宿。そんなところだからこそ、得ることが出来るもの。居心地の良い空間。
旅人が好き。人が好き。だけど、忙しくなるのが嫌だからと、全く宣伝はしていない。9月に入ってから1人も客が来なかったのでもう冬支度をしようと思っていた、とオーナーは僕に笑って話す。

旅は24日目、走行距離は4000kmを越えた。島田たくろう牧場は、偶然の出会いでありつつも、少々旅の倦怠に撒かれつつある僕にインスピレーションを与えてくれる、奇妙で不思議で素敵な宿だった。

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