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scene 35 山形・福島・東京

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山形県村山市楯岡 道の駅むらやまにて

10月8日
18:30、山形県村山市の道の駅むらやま地図)に到着。ここでそばをすする。村山市ではそばが有名とのことだが、この道の駅の簡易食堂のようなところでもなかなかうまい。
乳頭温泉から4時間。ここまでひたすら南下してきた。秋田との県境雄勝峠を越えるあたりまでは陽が残っており、流れる景色を楽しむことができたが、そこから間も無く日没となってそれから2時間、ずっと夜闇をわずかな街灯を頼りにここまで走ってきた。思った以上に距離が伸びていない。知らないうちにスピードが落ちていたようだ。そして気温の低下、精神の消耗。だいぶ辛くなってきたがそれでも、今日のあいだに着くならそれでいい。長い一日だなと息をつく。

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山形県村山市楯岡 道の駅むらやまにて

そばを食べ、一服してからオートバイに戻る。そしてかっぱを着込み、荷物にシートを被せる。台風22号が接近しているのだ。非常に大型と伝えられた台風が今夜半に関東に上陸するとのこと。まだ雨は降っていないが、夜空で雲の流れが見えなくとも気配を感じる。こういうことも旅をしていると身についてくる。これが帰りを急がしていた理由でもある。一日帰りを遅らせたとしても明日は台風で何もできず、ここに留まる理由はない。最後は多少降られてもこれで終わりなのだから問題ない、と南進してきたのだが、山形でもう雨に降られるとはちょっと計算違いだった。
僕の予感は当たり、山形市内に入ったころに雨はぱらぱらと降り始めた。

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福島県福島市松川町 道の駅安達にて

19:30、山形市街通過。
国道13号の雨の旅。南陽市、米沢市を通過して、道は山へ入り、街灯もなくなってきた。自分のヘッドライトだけが頼りになる。民家も店も何もない。ただ暗いだけの道。ここでオートバイが止まったら、僕は暗闇に投げ出されてしまう。スピードもさらに落ちた。アスファルトの轍に雨水が溜まっていて、思うようにオートバイを倒せない。雨が体に当たって体が冷えているようだ。ヘルメットの中が曇りだして視界が遮られる、その度にバイザーを開けて雨を顔に受ける。対向車のトラックが容赦なく僕に水しぶきを当ててくる。いよいよきつくなってきた。
西栗子トンネル。山形と福島の中央分水嶺。2675kmのトンネル。トンネル内は溜まった排気ガスのおかげで暖かい。トンネルを走っている間にカッパも乾いてくる。排気ガスの温かみに幸せを感じる。それも3分間の束の間。トンネルを出て福島に入り、さらに強い雨に僕とオートバイは打たれた。暗い道の中をこの先のカーブがどちらに曲がるかだけを注視して僕は進んでいった。

21:00、福島市街にて給油。国道4号へ。

22:00、道の駅安達地図)に着く。ここにて休憩。屋内に入ってかっぱを脱ぐ。屋内は軽く暖房が入っていて、雨で冷えたからだと鋭利な精神を解きほぐしてくれる。
一息入ったところで、この後の身の振りを考える。高速に乗ろうか。でも、強くなる雨と風。途中で何か起きてもいけない。ここを仮の宿にしようかとも考えた。どうも明日東北で大きなイベントがあるらしく、ハーレーに乗ったライダーがこの道の駅に多くたむろしていた。その中にはもうすでにここを宿にする準備をしている人もいた。でも、明日また雨の中走らなければいけないことは変わらない。1時間考えた末、僕はまたオートバイを走らせることにした。

23:00、道の駅安達を出発。

10月9日。0:30、福島県矢吹町へ入る。
夜闇の中、国道4号を南下。雨はさらに強みを増す。台風が接近している上に、そちらに向かっているのだから当たり前だ。ひたすら体を動かさないようにしてオートバイを走らせる。スピードが出ない。少しでも手許が狂うと転倒してしまいそうな気がした。時折トラックが僕を抜いていく。そのときが一番注意を払う。前が開いているときは出来るだけトラックを先行させるが、僕のスピードが遅いことは知っているのだが、曲がった道だとずっとトラックを背負ったまま走らなければならない。
そのときはずっとトラックを背負っている状態だった。いきなり僕の背後で何かが破裂したような音がなった。そしてリアが大きく左右にぶれる。僕は倒れこもうとする車体をなんとか立て直して、ゆるゆると路肩にオートバイを止めた。その横を軽くホーンを鳴らしてトラックが通り過ぎる。
間一髪だった。タイヤがバーストを起こしたのだ。実はタイヤがスリップサインをとうに超えて、中の布まで見えている状態での走行だった。自然に破裂したのか、石に乗ってバーストしたのかは分からない。とにかく一命は取り留めた。トラックの前で倒れなかったのもそうだし、トラックが僕を気にしていなかったら、急停止した僕を引きかねなかっただろう。
幸い、ここは街の中心地のようだった。これも幸い。僕は50m先にあるコンビニエンスストアまで、タイヤがない重いオートバイを引いていった。

1:00、コンビニの店員に事情を説明して、オートバイを置かせてもらい、店の前の信号でヒッチハイクを開始する。オートバイを止まってしまったが、体だけでも東京へ帰れればそれでいい。スケッチブックに大きく「東京」と書いて手前の信号の前に立つ。旅の途中で出会ったヒッチハイカーの話を思い出して、出来るだけ真似てみた。トラックが捕まりやすいという話だったので、信号でトラックが止まるたびに運転席へ向かってボードを掲げる。でも、一様にみな手を振り首を振る。僕は雨の中傘をさしてできる限りの礼節をふるって、何度も何度もアタックした。

2:30、車は捕まらず。店のひさしで休んでいると、コンビニの店員の方が肉まんを差し入れしてくれた。そして店員の話を聞いた客の1人が、僕に話しかけてきた。ここでヒッチハイクをするより、もっといいところがある。東京まではいけないけど、そこまで乗せて行ってもいい。僕は彼に従ってそこまで連れて行ってもらうことにした。
彼いわく、「その髭では人相悪いよ」と。僕はこの2ヶ月の旅の間一度も髭をそっていなかった。確かにこの真夜中に、この人相で見ず知らずの人を乗せるのは勇気がいるかもしれない。
数キロはなれたところにあるIC前のコンビニに連れて行ってもらった反対にはガソリンスタンドもある。大きな駐車場には仮眠をとっているトラックも大勢いた。確かにここの方が可能性はありそうだ。またコンビニの店員に事情を説明して、ヒッチハイクに取り掛かった。

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福島県矢吹町 JR東北本線矢吹駅

5:00。
空は白み始めている。結局車は捕まらなかった。雨と風はさらに強くなって、ボードはすでに水に濡れてぼろぼろだった。僕は荷物すべてを宅急便にして送り、最寄の駅までのヒッチハイクに変更。するとすぐに捕まった。

5:30、矢吹駅到着。ヒッチハイクをしてくれた方は横浜ナンバーの方だった。始発は6:43。まだ駅も開いてはいなかった。

6:43、矢吹駅を出発。車輌には大きな旅行バックを持った女性が1人。

7:00、新白岡駅到着。みどりの窓口に駆け込み、新幹線の切符を買う。

7:06、新幹線やまびこ152号に乗車。

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車内にて

新幹線の席に腰を掛ける。ここちよく暖房が掛かった車内で体が少し心地よくなっているのが分かる。思えば、この夜はずっと立ちっぱなしだった。昨日起きてから24時間もたっている。長い一日を思い出す。何でこんなに苦労しなければならないのか分からないが、ただとにかく帰ろうとそれだけを思ってひたすらに邁進してきた。何も意味なんてない。ただ帰るだけの話。
睡魔に身を委ねる。こうして僕の長い、怒涛の一日が終わった。

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