- 2010/05/03 11:50
- 本

女の一生〈1部〉キクの場合 (新潮文庫)
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ずっと前に購入していたのですが、なかなか機会がなくて積読のままの本でした。やっと既読です。遠藤周作といえば、やはりキリスト教を中心とした宗教を背景にした作品がすばらしいですよね。昔、学生のときに先輩に進められて「深い河」「わたしが・棄てた・女」など著明なところは読んでいました。今思うと、こういう類の本を薦められるというのはちょっとおぞましいところもありますがね。ここでまた遠藤周作の本を読もうと思ったのは、長崎に行ったことが契機になっています。
ということで本作。「女の一生 キクの場合」は幕末の長崎を舞台にしたお話。幕末の長崎、となれば、本サイトでも散々紹介している長崎の世界的な出来事「信徒発見」のお話であります。登場人物にも当時大浦天主堂を授かっていたフューレ神父やプチジャン神父の名も実在で出ていて、歴史小説の体をしていますね。勿論、あくまで小説、脚色があるわけですが幕末の開国による異文化流入の混乱や、浦上のキリシタンの復活、その迫害など史実を伝えている部分もあり、このあたりの歴史を知りたい方にも充分応えるところがあります。とりわけ臭いものにはフタをする日本であまり伝えられていない、浦上信徒に対する迫害、4年間にも及ぶ「旅」といわれる流罪の様などはとりわけ貴重な記述だと思います。
さて話は転じて主人公のキク。その生き方には心打たれるわけですが、私はその汚れと神聖なものとの葛藤に熱い視線を送ります。愛する男を助けるために自分を悪代官に売ってしまう。これには著者自身の心がこめられていますね。遠藤周作はカトリック信者であるといわれていますが、彼は日本におけるキリスト教の扱いに非常に心を痛めたと言われています。そこには聖書にある、ボロ切れ1つでみをまとった姿で嘲笑されるキリストの姿を連想させる、いわゆる象徴がこめられているわけです。結局何一つ彼女は報われないわけですが、そこに著者自身が思う信仰の真実が投影されているわけですね。浦上信徒にしてもいくら祈っても神は助けてはくれない。最終的には彼らは救われるんですが、その凄まじき苦役について、祈ったからって救われるんじゃなく、その姿勢こそが生きることなのだといいたかったのではないか、そう思うわけです。すばらしいですね。
というわけで、「信徒発見」の歴史小説のこちら、長崎に行かれる方は出発前にオススメ。長崎の街も、大浦天主堂も、浦上も、そして原爆もまた違うように見えてくると思いますよ。ちなみに、タイトルにキクの「場合」とありますが、もう一つ「女の一生 ミツの場合」という本もあって、2部作となっています。こちらも後ほど。
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- 女の一生 キクの場合/遠藤周作 - 茜食堂 より